愛と運命のはざまで——凪良ゆう『汝、星の如く』が描く、生きるという選択

novel

「人は、自分の人生を選びとることができるのだろうか?」

そんな問いに、真正面から向き合った作品がある。
凪良ゆうによる長編小説『汝、星の如く』は、地方の離島を舞台に、家庭に恵まれない二人の少年少女が、愛と現実の狭間でもがきながら、それでも前に進もうとする姿を描いた物語だ。刊行と同時に大きな話題を呼び、2022年下半期・第168回直木賞候補作にも選ばれた。

物語の始まりは、鹿児島の離島。
父親が不倫相手と失踪し、母親と二人で暮らす暁海(あきみ)。そして、家庭内暴力と過干渉な母に支配される転校生・櫂(かい)。二人はそれぞれの孤独と傷を抱えながら出会い、互いの存在だけが生きる支えとなっていく。

凪良ゆうさんの筆致は静かでありながら、残酷な現実を容赦なく突きつける。愛することの純粋さ、そしてそれが社会や家族の都合によって引き裂かれてしまう無力感。その描写は痛々しいほどリアルで、読者の胸を強く打つ。

本作が並の恋愛小説と一線を画すのは、「好きだから一緒にいる」という単純な構図に収まらないところだ。
暁海と櫂の人生には、幾度となく別れのタイミングが訪れる。若さゆえの無力、社会のしがらみ、親の影…。それでも彼らは、自分の意思で生き方を選び取っていく。

「星のように離れていても、互いを想い続けられるのか」
タイトルに込められたその問いは、二人の関係性を象徴している。互いを縛らず、ただ在り続ける。その姿には、どこか現代の「新しい愛の形」すら感じさせられる。

『汝、星の如く』の魅力は、派手な展開に頼らず、登場人物の心理や日常の積み重ねによって物語を動かしていく点にもある。
彼らが泣き、怒り、笑い、小さな一歩を踏み出すたびに、読者の心も揺さぶられる。
それはまるで、自分自身の人生の記憶に触れるような感覚。

物語が進むにつれ、暁海と櫂は離島を出て、それぞれの道を歩むようになる。だがその距離こそが、彼らの成長の証でもあり、愛の深まりでもあると気づかされる。

読み終えたあと、ページを閉じる手がしばらく止まらなくなる。
人生とは何か、愛とは何か。
それを静かに、でも確かに問いかけてくる一冊。
『汝、星の如く』は、ただ「読む」のではなく、「生きることについて考える」体験を与えてくれる物語だ。

苦しみのなかでも、誰かを想い、前を向く力をくれるこの小説は、今の時代を生きる私たちにこそ必要なのかもしれない。

9784065401880 汝、星のごとく (ナンジ ホシノゴトク) 講談社 講談社 900

著者プロフィール

凪良 ゆう  (ナギラ ユウ)  (著)

【凪良ゆう(なぎら・ゆう)】
京都市在住。2007年に初著書が刊行され本格的にデビュー。BLジャンルでの代表作に連続TVドラマ化や映画化された「美しい彼」シリーズなど多数。17年『神さまのビオトープ』(講談社タイガ)を刊行し高い支持を得る。19年『流浪の月』と『わたしの美しい庭』を刊行。20年『流浪の月』で本屋大賞を受賞。同年『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。22年本作で第168回直木賞候補、第44回吉川英治文学新人賞候補、2022王様のブランチBOOK大賞、キノベス!2023第1位。そして23年、2度目となる本屋大賞受賞作に選ばれた。同年11月、続編となるスピンオフ中編集『星を編む』を刊行。

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