2021年に刊行された知念実希人の長編ミステリー『硝子の塔の殺人』は、刊行直後から話題を呼び、2022年本屋大賞にもノミネートされた注目作です。タイトル通り舞台となるのは、長野県・蝶ヶ岳の中腹に建つ奇抜な建築「硝子の館」。地上11階、地下1階、円錐状のガラス張りという、まるで異世界にそびえるような構造物で、すでに「クローズドサークル」の香りが漂います。
あらすじの概要
硝子の館の主人は、かつて生命工学の教授でありミステリーオタクの大富豪・神津島太郎。彼が“ある物を手に入れ発表する”ことをきっかけに、刑事や霊能力者、小説家、編集者、探偵を自称する女性など、クセ者ぞろいのゲストたちが館に集められます。
しかし、かつてこの地では凄惨な事件が起きていました。13年前、暴行された女性が血まみれで発見され、さらにペンションの地下からは11人分の白骨死体が見つかるという未曾有の事件。重要参考人とされたペンションのオーナー・冬樹は、雪崩で命を落としたとされましたが、その真相は謎のまま。
現在と過去の事件が交錯する中、館の内部では新たな惨劇が起こり、ゲストたちは否応なく推理と対峙することになります。

登場人物の魅力
登場人物はまるで「ミステリーのお祭り」のような布陣。
- 命令口調の刑事・加々見剛
- 妹を救うため暗殺を狙う医師・一条遊馬
- 「名探偵」を自称する探偵・碧月夜
- 霊能力者の夢読水晶
- 本格派作家・九流間行進と編集長・左京公介
さらにメイドや執事など、古典ミステリを思わせる役割も揃い、読者をわくわくさせます。知念作品の人気キャラ「天久鷹央」に言及する遊び心もあり、作者のミステリー愛とユーモアが随所に光ります。
読みどころ
『硝子の塔の殺人』は、クローズドサークル、奇抜な舞台設定、クセ者たちの心理戦という、本格ミステリの王道要素を詰め込みつつ、現代的なテーマも絡めて展開していきます。特に「ミステリーを愛する者だからこそ楽しめる仕掛け」が散りばめられており、クラシックな推理小説へのオマージュとしても楽しめるのが大きな特徴です。
本格ミステリを読み慣れたファンには「ニヤリ」とさせる要素が満載であり、同時に初めて読む人にも純粋なサスペンスとしてスリルを味わえる構成になっています。
まとめ
『硝子の塔の殺人』は、知念実希人の「本格ミステリへのラブレター」とも呼べる大作です。閉ざされた舞台と謎が謎を呼ぶ構造は、推理小説の醍醐味を存分に味わわせてくれます。2022年の本屋大賞ノミネートも納得の、今後も読み継がれるであろう現代ミステリの快作といえるでしょう。
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