心をほぐす一冊。町田そのこ『宙ごはん』の優しい力〜様々な家族のカタチと思いやりへの問い〜

主人公は、「宙(そら)」という名前の少女。彼女は生まれてすぐに母親と別れ、母親の妹のもとで育ちます。そして小学生に上がる時に母親と暮らし始めます。母親との距離を感じながらも料理人の恭弘から教わる料理を通して彼女たちの人生は少しずつ変わり始めます。

物語は、宙が成長しながら、周囲の人々と出会い、食卓を囲む中で、心を通わせ、そして自分自身の「居場所」を見つけていく姿を描きます。

この作品の魅力のひとつは、「ごはん」が象徴するもの。単なる料理の描写ではなく、それが作られる背景や、一緒に食べる人の想いが丁寧に描かれていて、読んでいるこちらの心まであたたかくなります。

たとえば、宙が初めて「おいしい」と感じた食卓。その感動が、彼女の中に「家族とは何か」という問いを生み出します。血のつながりだけではない、心と心でつながる関係性。それこそが、この物語の軸となっているのです。

町田そのこさんらしいのは、登場人物たちがみな、何かしらの「寂しさ」や「傷」を抱えていること。でもその傷を抱えたまま、誰かに寄り添い、そっと手を差し伸べる姿が、本当に美しくて、胸を打たれます。

「家族ってなんだろう?」
「どうして人は一緒にごはんを食べるんだろう?」

そんな問いに、まっすぐに向き合った『宙ごはん』は、読む人の心にそっと寄り添ってくれる作品です。

ラストまで読み終えたとき、宙の成長と共に胸が熱くなり、そして自分自身の大切な人たちのことを思い出します。忙しい毎日の中で、つい忘れてしまいがちな「誰かとごはんを食べる幸せ」。その当たり前を、もう一度大切にしたくなる物語です。